Special Interview - 2

伝統を生かしながら、 新たな挑戦を形に。

日置市の湯之元温泉街の一角に、創業百年を迎える和菓子店「梅月堂(ばいげつどう)」が静かに佇んでいます。山椒の葉がのった「湯之元せんべい」の店、というのが鹿児島県民には通りが良いかもしれません。この小さな和菓子店が、今、注目を集めています。同店の「ぬれどら焼き プレミアム」や新銘菓「ラムドラ」が、ここ数年で食に関心の高い人々に注目され、首都圏の一流百貨店等で定番品として取り扱われるほか、全国誌、本、新聞、ウェブなどの取材が続いています。日置市から全国へ発信される魅力の秘密は何か、「梅月堂」の代表取締役・石原良さんに話を聞きました。

老舗の伝統を生かしながら、新しい挑戦を形にした2つの銘菓「ぬれどら焼き プレミアム」と「ラムドラ」。一般に、どら焼きは「朝生菓子」といって、出来立てが重んじられる和菓子の世界。その概念をくるりと返して“時と共に味が深まるどら焼き”という価値を提案しています。「ぬれどら プレミアム」は、職人が一枚一枚手焼きした薄皮に、北海道産大納言小豆の粒餡がたっぷり。照りのよい皮は、時が経つほどにしっとりからじっとりに変化し、さらに味わい深く。「ラムドラ」は、ぬれどら焼きに自家製ラムレーズンを挟んだ新銘菓。香り高いダークラムをたっぷり含んだレーズンがプチッとはじけ、皮と餡と絶妙なハーモニーです。どちらも約60年前から変わらない製法で作られているぬれどら焼きがベース。じっとりした皮という珍しい特徴を守りながら、餡を改良したり、自家製ラムレーズンを加えたり、と新しい工夫をして、魅力ある商品を誕生させました。

石原良さんは現在37歳。先代の急逝に伴い、東京での勤めを整理して妻・理恵さんと共に帰郷。2013年に4代目に就任しました。事業継承で厳しい経営状況に直面し、「何とかしなければ」と危機感を覚えたと言います。まずは、看板商品「湯之元せんべい」を手に、若い人に知ってもらおう、と地域のイベントに出店することから動き始めました。また、石原さんは、県主催の経営者育成プログラムに参加。人と出会い、学び、大いに刺激を受けたそう。そんな中で、自社の強みを見つめ直した石原さん。「梅月堂」の強みは、「味に自信を持てるお菓子があり、丁寧な仕事をする職人がいること」でした。そして、強みを生かすため、石原さんは「知ってもらうこと」を自らの役割と定めます。それから、ロゴや商品名、パッケージデザインを見直してリニューアル。販路開拓も、理念に共感できる売り先を厳選し、妻と二人で飛び込み営業を続けました。その結果、「梅月堂」の高い品質と伝統を重んじながらも進化を続ける姿勢が伝わり、現在の結果に。

石原さんがたびたび口にするのは「私は人に恵まれている」ということ。「運が9割、その運のほぼ全てが人のご縁」と言い切ります。「長年商売を続けてこられたのは確実に地元の方々のおかげです。そして、心に残る言葉をかけてくださる方や応援してくださる方があり、ここは人に恵まれた地域だと感じています」。また、日置市の魅力について、美しい風景、美味しいもの、温泉があり、訪れる価値がある場所、と語ります。「大きな夢ですが、私たちが目指すのは『鹿児島で一流の和菓子専門店になること』。日置市を訪れた方が、この店にも立ち寄りたいと思ってもらえるよう、本業を深めていきたい」と、穏やかな笑顔の中に、この地で生きていく確かな志をにじませて語ってくれました。

 

Interviewee 株式会社 梅月堂(webサイトへ)
代表取締役 石原 良